排出権取引と炭素税

二酸化炭素などの温室効果ガス排出に規制をかける手段として、表題の二つのメソッドがよく登場します。排出総量を確実に削減できるけど、発生コストが不確実な「排出権取引」と、発生コストは予測できるが、排出総量が想定よりも少なくなってしまう可能性がある「炭素税」。こんなことを、学生時代に受講した環境経済学で学びました。
先日、米国下院で気候変動問題に関する新しい法案が可決したというニュースを知りましたが、そのニュースについて、ライス前国務長官がどう思っているのか、という記事を見つけました。これが非常に興味深かったので、以下にまとめてみようと思います。

Condoleezza Rice on Cap and Trade: It's Easily Abused – Gigaom

フーバー研究所シニア・フェローのCondoleezza Rice氏は、排出権取引システムについて、

  • 簡単に悪用される(easily abused)
  • 特に、インターナショナルなレベルでそれが起こる

と述べていて、そのため、直感的で簡単な炭素税の方が好ましいと主張しています。ライス氏だけでなく、気候研究者のJames Hansen氏やAl Gore氏、Exxon Mobil CEOのようなビジネスリーダーたちも、同じような理由で炭素税の方が好ましいと考えているようです。

ライス氏、京都議定書での交渉で主要な役割を演じたとのことですが、

  • 京都議定書で示されている排出権取引システムはばかげている(ridiculous)
  • 国内レベルでも簡単に悪用される可能性がある
  • インターナショナルなレベルだと、その可能性は100倍だ

という考えを持っているようです。また、今回の米国下院での法案可決によって、米国の世界からの信用を得て、次の気候変動に関する交渉を優位に進めることができるか、という問いに対し、ライス氏は、

  • 気候変動対策に向けて研究開発に投資している時点で、既に信用されている(credible)
  • もし、この法案のゴールが甘いと指摘する国があったら、言ってやりたい
  • そちらの国は、京都議定書で合意したゴールを達成できそうなのか、と
  • ブッシュ政権は、京都議定書の内容をより良くしようと議論を引っ張ってきた

と述べています。
12月のコペンハーゲンでの交渉でライス氏が注目している点は、以下のことだそうです。

  • 途上国(中国やインド)の排出を規制する方法
    • まだ、議論の余地はあるのか
    • 経済成長を抑制することなくできるか?
    • これが、米国が京都から抜けた理由
  • イノベーションやクリエイティビティ
    • 国際的なフレームワークが、これを封じてしまうようなことがあってはならない
    • これを明確にするべき
    • ヨーロッパにおける遺伝子組み換え食品の規制が、企業が製品を作り、市場が成長するのを難しくしてしまった

排出権取引をやるにせよ、炭素税を導入するにせよ、炭素排出量を信頼できる方法で測定することが前提となりそうですが、それをやるための仕組みとかシステムとかは、まだまだ整っていないのが現状なのではないかと、ここ数ヶ月の調査を通じて感じていることです。確かに、炭素の排出量など、いくらでも改変できてしまいそうな気もします。
いずれにせよ、議論は進んでいるようなので、今後も注目していきたいと思います。